東京地方裁判所 昭和25年(ワ)429号 判決
原告 馬場幸子
被告 石間建設株式会社 外一名
一、主 文
原告に対し、被告石間建設株式会社は別紙目録<省略>記載の土地をその地上にある木造トタン葺平家建住宅兼店舗一棟建坪約十七坪を收去して明渡し、被告林久治郎は前記土地を、前記の住宅兼店舗から退去し且つその地上にある木造木羽葺平家建材木小屋一棟建坪約二十四坪を收去して明渡すべし。
訴訟費用は被告両名の連帶負担とする。
この判決は被告等のために各金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同趣旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は昭和二十一年八月二十八日訴外合資会社石間組に対し、原告所有の本件土地を含む七百六十六坪三合三勺これに材料置場としての一時使用権を設定する目的で賃料は一箇月一坪一円五十銭毎月末日払期間は昭和二十四年八月二十八日までと定めて賃貸したが、被告会社は昭和二十二年三月十日右訴外会社を吸收合併して同会社の債権債務を承継し、次で、昭和二十三年六月二十日その商号を石間建設株式会社と変更した。しかして、被告会社は昭和二十二年中本件土地に原告に無断で木造トタン葺平家建住宅兼店舗一棟建坪約十二坪を建築し、次で、昭和二十三年夏頃五坪の建増をし、現にこれを所有しているが、右賃貸借は昭和二十四年八月二十八日限り期間の満了によつて終了したから、被告会社は原告に対し右建物を收去して本件土地を明け渡す義務を負つているのである。また被告林は昭和二十三年夏頃本件土地に木造木羽葺平家建材木小屋一棟建坪約二十四坪を建築し現にこれを所有するとともに、前記建坪約十七坪の建物に居住して本件土地を占有しているが、同被告は、本来右土地を占有する何等の権原も有しないものであるから、同被告はその所有の右建坪約二十四坪の建物を收去し、且つ右居住建物から退去して本件土地を原告に返還する義務を有するのである。よつて被告等に対し右各義務の履行を求めるため本訴に及んだ次第であると述べた。<立証省略>
被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、答弁として原告の主張事実はその主張の賃貸借が一時使用のためになされたものであるとの点及び被告等の建物の建築が原告に無断若しくは無権原でなされたものであるとの点を除いて総て認める。(一)右賃貸借は建物の所有を目的とする通常の賃貸借であつて借地法の適用を受くべきものであるからなお存続中である。(二)被告会社が建物を建築するについては原告の明示の承諾がありまた被告林が本件土地を使用するについては原告の黙示の承諾があつたものである。以上の次第であるから原告の本訴請求に応ずることはできないと述べた。<立証省略>
三、理 由
原告が昭和二十一年八月二十八日訴外合資会社石間組に対し原告所有の本件土地を含む七百六十六坪三合三勺を賃料は一箇月一坪一円五十銭毎月末日払期間は昭和二十四年八月二十八日と定めて賃貸したこと及び被告会社が昭和二十二年三月十日各訴外会社を吸收合併してその権利義務を承継し、次で、昭和二十三年六月二十日その商号を石間建設株式会社と改めたことは当事者間に争がない。
よつて右賃貸借は果して原告主張のような一時使用を目的とするものか否かについて按ずるに、成立に争のない甲第一、二号証と証人馬場ミサヲ、馬場兼嘉、浦島常治の各証言を合せ考えれば、右賃貸借は一時使用の目的でなされたものと認めるに充分である。けだし、右各証拠を綜合すれば、原告の母馬場ミサヲは昭和二十一年七月頃合資会社石間組からその亡夫の弟馬場兼嘉を通じて本件土地の借地申出を受けたが、右土地は元来昭和二十年三月十日その建物が戦災で焼失するまでは原告方がそこで材木商を盛大に営んでいた土地であり、原告方では将来そこで材木商を再開する予定で他に賃貸もしないでその期の熟するのを待つていた矢先であつたのでミサヲは右申出を拒絶したのであつた。しかるに、石間組からはその後も再三借地の申出があり、後にはその代表者石間桂造から直接に、同人はミサヲの亡夫の知合であり、石間組としては都内築地方面に大きな地所を買い取つているのであるから原告方を困らせるようなことは決してしない。借地は会社の材料置場として使用するのであり、建物としてはその置場に必要な仮設建築物を建てるに過ぎないから三年間でもよい是非賃貸して貰い度いと懇請せられるに至つたので、ミサヲもその懇請を拒絶し兼ね、材木商の再開といつてもそれには相当の準備期間も要することであり、三年位ならば原告方としても大した支障を来たすことはあるまいと考え、遂に、原告を代理して本件土地は材料置場とその置場に必要な仮設建築物の敷地以外の用途には使用しないという条件で前認定の賃貸借を承諾するとともに、この条件について紛議の生ずることを避けるため甲第二号証の私成賃貸借証書の外に更に公証人に委嘱して同第一号証の賃貸借公正証書を作成したことを認めることができ、これに反する証人須貝誠一郎の証言はにわかに信用し難く、その他にこの認定を動かすに足る証拠はないからである。思うに「一時」という観念を以て常に必ず時の長短だけによつて定まるものとするにおいては三年の期間はこれを「一時」とするには長過ぎるのではないかとの疑問を生ずる余地がなくもないが、借地法第九条にいう「一時」の観念は必ずしも時の長短だけによつて決すべきものではなく、それは当事者の意思とその意思の表示せられたときの個人的、社会的、経済的事情によつて決定すべきものである。この立場から本件を見るに何事を企図するについてもことを早急に運ぶことのできないわが国現在の社会経済事情の下で原告がその所期の営業所を建築し営業を開始するには三年位の準備期間を要するものと考え、その間その敷地について他人の懇請を容れて一時使用のための借地権を設定したとしても、それは敢て異とするに足らないから、本件賃貸借について三年の期間の定めのあることは未だ前認定の妨げとなるものではない。果してしからば、右賃貸借は一時使用のための賃貸借であることが明かなものとして借地権の適用を受けないものと認める外はないから、昭和二十四年八月二十八日限りその期間の満了によつて終了したものといわなければならない(本件賃貸借が民法の規定によつて更新せられるか否かについては被告の主張も立証もないが成立に争のない甲第三号証及び証人馬場ミサヲの証言を綜合すれば更新はその余地のないことが明かである)。
さて、現に本件土地を、被告会社がその上に原告主張の建坪約十七坪の建物を所有して占有し、また、被告林がその上に同建坪約二十四坪の建物を所有し且つ右建坪約十七坪の建物に居住して占有していることは何れも当事者間に争いがないが、しかるときは、原告に対し、被告会社は前認定の賃貸借の終了によりその所有建物を收去して従前の借地を明け渡す義務を負担し、また本件土地の占有について原告の黙示の承諾を得たと主張するだけでその事実を徴するに足る証拠を提出しない被告林は結局右土地を無権原で占有するものとしてその所有の建物を收去し且つその居住建物から退去して右土地を明け渡す義務を有するものと認める外はない。
よつて、被告等に対し各義務の履行を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項、仮執行の宣言につき同法第百九十六条の各規定をそれぞれ適用して主文の通り判決する。
(裁判官 田中盈)